14.Sep,2024
Guest Speaker:林信行
Special Guest : ミヤタコーヘイ/小畑和彰
With:小西利行
金沢未来のまち創造館
それでは、時間になりましたので、ただいまより始めさせていただきます。本日はお越しいただき誠にありがとうございます。
私たちTENJO KANAZAWAでは、この「金沢未来のまち創造館」に関する事業支援や事業相談を行っております。皆様の創業や事業発展に役立つセミナーをこのように毎月開催しております。本日は「スモールトーク2」として、ゲストにチェリストの宮田浩平さん、そしてピアニストの小畑和彰さんをお招きしました。お二人と共に、事業の形についてお話を伺っていきます。モデレーターはCLL代表の宮田と、前回のスモールトークでもゲストとしてお招きした林信行さんです。
それでは、よろしくお願いいたします。
皆さん、こんにちは。前回はいつでしたっけ? 数ヶ月前に林信行さんと一緒に「スモールトークVol.1」をやりました。その時に、このスモールトークは基本的に起業やビジネスの話をする場なのですが、少しだけ今回のゲストである彼らの話をしたんです。前回もいらっしゃった方は覚えているかもしれませんが、告知でもお知らせしました通り、彼は私の甥っ子です。
前回、彼が音楽家でありチェリストとして活動しているという話を少しだけしました。彼は1999年生まれで、父親は私の兄、母親はピアニストでして、幼い頃から英才教育を受けてきました。しかし、なぜか小さい頃から私に懐いてしまって、親の期待から少し外れて「反逆者」になってしまったんです(笑)。
彼が今日のゲスト、宮田浩平(コーヘイ)です。
そして、もう一人のゲストはピアニストの小畑和彰(バター)さん。彼はピアニストである一方、ウェブエンジニアとしても活躍されています。彼の話を聞いて興味を持ち、いろいろと調べていたところ、東日本大震災の時の彼の動画をYouTubeで発見しました。小学校5年生のときにテレビで取り上げられた映像ですよね?
そうです。震災後にチャリティーコンサートを企画して、地元のホールで開催しました。その時に地元のテレビで取り上げられたんです。
10歳くらいですよね。その年齢で「自分にはピアノがあるから、ピアノで少しでもみんなの希望を応援したい」と言って、コンサートを自分で企画したなんてすごいです。どうやってコンサートを企画したんですか?
そうですね、震災当日、私は学校で大掃除をしていたんです。先生方がざわざわしていて、「地震があったらしい」と話していました。当時はそんな大きな地震を経験したことがなくて、家に帰ってテレビをつけたら、あの悲惨な光景が映っていました。それを見て、子どもながらにショックを受けました。私は被災者ではありませんでしたが、何か自分にできることはないかと考え、チャリティーコンサートを企画したんです。
今日はなぜ彼らをお招きして、起業の話をしようとしているのかと言うと、彼らの活動を聞いているととても興味深い点が多いからです。
私が彼らの年齢の頃、音楽家として社会に出て仕事を始めましたが、その経験は今でも私のビジネスに大きく影響しています。音楽家としてのキャリアと、世間で言われるスタートアップというのは、実はとても似ていると感じています。そこで今日は、音楽とスタートアップの共通点についてお話ししたいと思います。
林さんはジャーナリストとして、アップルの歴史などを長年取材されていますが、音楽との接点についてどのように感じていますか?
僕は音楽は全然できないのですが、シリコンバレーではよく「ガレージから起業する」という話がありますが、音楽も同じようにガレージから始まることが多いんです。アップル製品にも「ガレージバンド」というアプリが最初から入っていますよね。
まさにその通りです。音楽活動とスタートアップには多くの共通点があります。今日はその話をしながら、二人の活動についても深掘りしていきたいと思います。
では、まずはバンド活動について話をしましょう。音楽にもいろんなスタイルがありますが、この二人も基本的にはクラシック音楽をベースにしていますが、その活動はバンドのようなものだと思っています。
このスライドのビートルズの写真は象徴的ですね。ビートルズは、個々のメンバーだけでは成功しなかったかもしれませんが、彼らのチームワークが大きな成功をもたらしました。
スティーブ・ジョブズも「ビートルズからビジネスの手本を学んだ」と言っていますよね。
バンド活動というのは、スタートアップを立ち上げるプロセスと非常に似ていると思うんです。チームやバンドでは、リーダーシップが重要で、何か新しいことを始めたいときには、誰かが最初に「これをやろう」と手を挙げますよね。音楽でも「バンドをやりたい」という声が上がります。それがいわゆるスタートアップにおける創業者の役割なんです。
ここで少し分かりにくいかもしれないので説明しますが、まずチームの視点があります。バンドは、各メンバーがチームとして構成され、それぞれに役割があります。
たとえば、ボーカル、ギター、ベース、ドラムといったように。これは、スタートアップで言うところのCEOやCTOのような役割分担に似ています。バンドでは、メンバー同士で協力して役割を果たしながら、全体としてプロジェクトや目標を設定します。たとえば、曲を作ったり、ライブのブッキングを行ったり。これがバンド活動の基本的な流れです。
お二人も、もともとそれぞれ違う活動や役割をしていたと思いますが、何か共通点があったのですか? どちらから声をかけたのでしょうか?
僕ですね。もともと音楽好きが集まる、セッション会というのがあるんですよ。音楽大学の生徒たちが集まって、みんなで音楽を演奏するんです。東京藝大が主催するものなどがあって。
そうなんです。その時に、たまたま僕が遊びに行っていたんです。僕もピアニストを目指していましたが、今はウェブエンジニアが本職で、音楽は趣味としてやっています。その時も、ただ遊びに行っていただけだったんですが、そこで彼(コーヘイ)に出会いました。彼はいつも真っ黒な服を着ていて、ちょっと変わった感じの人だなと思っていました(笑)。
でも、僕がピアノを弾いていたら、彼がとても気に入ってくれて、それからいろんな場所で一緒に演奏するようになったんです。
なぜバターと組んだかというと、もう一人、相方の作曲家がいて、その人は理論的にピアノを弾くんです。それはそれで良いんですが、僕はもっとスパイス、感情的なピアノを求めていたんです。
そこで、彼(バター)のピアノを初めて聴いた時、「この人は感情的にピアノを弾く人だ」と思ったんです。彼の弾き方は感情的ですが、同時に数学的な要素もあり、それがとても面白く感じました。
なるほど、私の仮説は割と合っているようですね。人を集めて、アイデアや技術を共有するというプロセスは、スタートアップでも必ずありますよね。バンドでも同じで、メンバーで音楽の方向性について話し合い、「こういうことをやりたいんだ」と共有する。これはビジネスにおけるアイデア出しやミッション設定と同じです。彼らも最初はそういう形で始めたのかもしれません。
そうですね。
ビジネスモデルというのは、どんどん変化(ピボット)していくものですし、最初は良いと思っていても、さらにブラッシュアップしていく必要があります。スタートアップで言うところの「プロトタイピング」ですね。
音楽で言えば、デモテープ作りにあたります。私の時代では、まだアナログのカセットテープでデモテープを作って、レコード会社や事務所に郵送するという、地味な作業をしていました(笑)。
現代ではデジタルファイルを簡単にメールで送れますが、基本的なプロセスは同じです。スタートアップでも、アイデアのプロトタイプを作って、それを誰かに見せ、フィードバックを集めて改善していく。
このプロセスは音楽家でも同じなんです。
なるほど。
このような活動を通じて、徐々に自信がついてくることがあります。彼らも良い音楽を演奏した動画をインスタグラムやTikTokに投稿しているわけですが、これも一種のプロトタイプを公開する行為だと思います。
なるほど、それがプロトタイピングなんですね。
そうです。結構やっていたんですよね?
めちゃくちゃやってました。いろいろな試行錯誤をしながら、他の人の映像を参考にして、「この人よりも良いものを作れる」とか、「この人がこれだけの視聴数を取れるなら、自分ももっとできる」と思いながら取り組んでいました。
それは戦略的に、目的を持って行っていたんですね。今では彼はインスタグラムで11万人くらいのフォロワーがいるんです。それって物理的なメディアではなかなか達成できない数字です。CDや雑誌を売るにしても、11万部売れるのは簡単なことではないですからね。
雑誌だって10万部売れたらかなり成功していると言えるでしょうね。
やはり、今の時代はSNSの力が大きいですよね。そして次のフェーズに進むと、音楽だと資金調達の話になってきます。
昔で言うと、これはレコード会社に自分たちの音楽を聴いてもらい、契約を勝ち取るプロセスにあたります。スタートアップで言えば、投資家にビジネスモデルをピッチするようなものですね。うまくいけば資金を調達できて、レコーディングに必要なお金が手に入ります。
レコーディングにはスタジオ費用やミュージシャンのギャラなど、いろいろとお金がかかりますから、この契約はまさにスタートアップの投資と似た構造なんです。
今では、昔ほどレコード会社が絶対的な存在ではなくなりました。昔はメジャーレーベルやインディーズ・レーベルと契約しないと音楽で稼ぐというのは難しかったですが、今の時代はその仕組みが大きく変わりました。
そうですね。特に集客の方法が大きく変わりました。昔はレコードやCDを売って、それが収益につながり、さらにその売り上げを元にライブに人を呼び込むという流れだったと思います。
でも今は、主にインスタグラムでのリール投稿が大きな役割を果たしています。動画を見て興味を持ってくれた人が、そのままライブにも足を運んでくれるような流れができています。実際に行動を起こしてから収益が発生するまでが、昔に比べて非常に短いんです。
それに、ターゲットを明確に絞っている点もありますね。
具体的にはどうやってターゲットを絞っているんですか?
最近の曲は、若い世代にヒットすることが多いです。ただ、場合によっては親子で聴けるような曲を選んだりもします。
例えば、インスタグラムのフォロワー層を30代から50代の年齢層に絞っているのは、経済的に余裕があるからです。昭和のヒットソングを演奏すると、その世代の人たちに強く刺さるんですよね。そこを狙って、よりターゲット層にリーチできるように戦略を立てています。
つまり、発信する場所によってターゲット層を変えて、さまざまな層をカバーするということですか?
そうですね。でも、単に女性向けや男性向けという考え方ではなく、年齢層にフォーカスしています。例えば親子で楽しめるコンサートもありますが、私たちは女性の30代から50代を中心にターゲティングしています。そうすることで、ブランディングにも合った形でファン層を広げています。
なるほど。ところで、資金調達について思ったのですが、音楽の世界でもベンチャーキャピタルの世界でも、投資家やプロデューサーがアドバイスをしてくれることがありますよね。
クイーンのドキュメンタリー映画でも、プロデューサーがアーティストに対していろいろな助言をしているシーンがありましたが、今のレーベルでもそういうサポートをしてくれるんでしょうか?
結局は、人次第だと思います。昔からレコード会社では、良いA&Rやプロデューサーに当たると非常に親身に対応してくれることがありますが、そういった人は少ないです。むしろ、今はセルフ・プロデュースができるアーティストなら、その方がより良い結果が出る時代になったと言えます。
林信行
なるほど、そういう意味では、自分でノウハウをどんどん吸収して身につけていく方が良いということですね。
投資やベンチャーキャピタルの世界では、投資家の影響が非常に大きいんです。担当する投資家次第で、その会社の運命が半分は決まってしまうこともあります。
最近では、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)という形態も増えています。企業が自社の資金を使って、自社のイノベーションを促すためにスタートアップに投資をするのですが、これがうまくいかないケースも多いんですよね。
自社の利益だけを優先することが原因になっているんでしょうか?確かに、そういうケースは多いように感じますね。
スタートアップの成長を考えると、業務委託やコンサルなどの外部リソースの力を借りることはよくあります。
音楽でも同様で、ヒット作を持つプロデューサーや作曲家、ミュージシャンなど、優れた人材を雇って自分たちの音楽を売れるようにすることがあります。
スタートアップがコンサルタントや専門家を雇ってプロジェクトを成功させるのと同じ構造です。自分たちのリソースだけでは限界があるとき、外部の力を借りて成長を促す。音楽業界でも、特に80年代や90年代は、誰がプロデュースするかで売れるかどうかが決まっていました。
たとえば、マドンナのヒットの背後にはナイル・ロジャースというプロデューサーがいました。彼のプロデュースによってマドンナは大成功を収めました。同様に、デビッド・ボウイも「レッツ・ダンス」という最大のヒットをナイル・ロジャースのプロデュースで手に入れました。ナイル・ロジャースが関わると、ほぼ確実にヒットを飛ばすほどのプロデューサーだったんです。最近では、ダフトパンクの作品にも彼が関わっていましたね。
もちろん、プロデューサーに依存しすぎると、アーティスト本来の音楽性が薄れるというリスクもありますが、ヒット作を生むためにはこうした外部のリソースを借りることが非常に効果的です。
スタートアップでも同じで、適切なパートナーと組むことで、プロジェクトが成功する可能性が高まります。
面白いですね。組む相手によっては、埋もれていたポテンシャルが開花するような感じですね。ポール・マッカートニーがヒュー・パジャムと組んだ時に、まったく新しい音楽スタイルを生み出した例を思い出します。
そういう風に外部の力を借りることは、ビジネスでも非常に有効です。また、確実に大切なのがファンベースの形成です。ライブや音源のリリースを通じて、ファンコミュニティを運営していくことがビジネスの基本です。
例えば、アプリを作っても、誰も使ってくれなければ意味がありません。これは漫画なども同じですよね。どんなに良い作品を描いても、誰にも読んでもらえなければ無駄になってしまいます。ファンに喜んでもらうことが何より大切です。
その点で、コーヘイはインスタグラムを使って積極的にファンとつながりを持っていますよね?
そうですね、性格的にマメなんでしょうか(笑)。インスタグラムではフォロワーのアクティビティを頻繁にチェックしています。一週間に5回か6回は必ず投稿していますし、フォロワーの性別や年齢層がどう変化しているかも確認しています。例えば、僕らのフォロワーの約88%は女性で、11%が男性です。こうしたデータを見ながら次の動画を考えることが多いですね。
さっきも話しましたが、プロデュースをする際、まず最初にファンをつけて、その上でクラシック音楽をベースにブランディングをしています。私たちのブランディングには、パガニーニの影響が大きいです。彼は「魂を悪魔に売ったバイオリニスト」として知られていますが、この「悪魔」というのは実際にはプロデューサーのメタファーなんですよ。プロデューサーの助けを借りることで一度は大成功し、その後プロデューサーを外すと失敗する、というような話です。映画にもなっていますが、そういった意味でプロデューサーは非常に大切だと思います。
パガニーニを知らない人もいるでしょうから、ちょっと演奏してみてもらえますか?
無茶振りですね(笑)。さすが叔父さん!
どうもありがとうございました【拍手】
こういう演奏は、昔だったらなかなかインスタグラムなどで簡単に披露することはできなかったと思いますが、明らかにこの10年でその手法が変わっています。もしかしたら、レコード会社や従来の芸能事務所の人々にはついていけない変化だったかもしれませんね。
むしろ、これだけ細かい知識や技術を持った演者だからこそできることかもしれません。マーケットそのものが大きく変わってきているのを感じます。
確かに、昔はプロデューサーやレコードレーベルに依存しなければスタートアップできなかったのに、今は本当に自分たちだけでスタートアップできる時代になっているんですね。
そうなんです。だから、実は投資家とスタートアップの関係も今、大きく変わるタイミングに来ていると思います。
確かに。クラウドファンディングを使えば、資金調達もできてしまいますもんね。
NFTなどの新しい手法も含め、選択肢が広がっています。だから、もはや投資家に頼る必要があるのか?という疑問が出てきます。僕が彼ら(コーヘイやバター)の活動を見ている限り、投資家の資金なんて必要ないと感じます。実際、コーヘイやバター君から「投資してください」と言われたことは一度もないんですよ。まあ、仮に言われたとしても断ると思いますけど(笑)。
そうなんですか(笑)
でも、彼らが投資家などの資金を必要としていないというのは、立派なことだと思います。
確かに、そうですね。
ここで、ファンと投資家の関係について少し考えてみると、ファンはバンドをサポートし、投資家がスタートアップを支えるのと同じような役割を果たしているんだと思います。ファンは推しが成功するかどうかわからない中でリスクを取って応援してくれているんですよね。
投資家が企業の成長を期待して金銭的なリターンを求めるように、ファンはバンドの成長と成功を見守り、エモーショナルなリターンを期待しています。リターンの種類は違えど、ファンも投資家も何らかのリターンを期待している点では同じです。成功すれば、自分に何らかの利益がもたらされる、という共通点があります。
このことを理解すると、投資家のお金や銀行融資に依存しないビジネスモデルを構築できる可能性が見えてくるんです。ファンの存在は本当に大切だと思います。
なるほど、そうですね。
こうした視点で考えると、新しい戦略が見えてくるかもしれません。また、成長と変革という点についてですが、バンドではメンバーの入れ替えがよくありますよね。音楽スタイルの変化や方向性の違いからメンバーが変わることがあります。スタートアップでも同様に、事業のピボットや人材の入れ替えが行われます。新たな人材が入ることで、バンドが次のステージに進むこともあれば、スタートアップがさらに事業拡大に成功することもあります。
バンドが解散し、メンバーが独立してソロ活動を始めることもありますが、スタートアップでもエグジットによって創業者が新しいビジネスに挑戦することがよくあります。音楽の世界でも、あるメンバーが抜けて新たなバンドで大成功することがあります。
もしかしたら来年、バター君が「コーヘイ、お前とはやってられない」と言い出すかもしれません。
そんなこと言わないよ!?
まあ、そういう可能性の話ね(笑)
でも、いろんな展開があると思いますし、新しいメンバーが入って面白い変化が生まれることもあるでしょう。お互いに頑張りましょう、という気持ちなのか、お前の顔は二度とみたくない!というのもあると思う。
今後どんな展開があるのか楽しみです。
さて、いよいよメジャーレーベルからアルバムを発売する段階になります。これって、株式公開、いわゆるIPOに似ていると思いませんか?
初めてアルバムを発売することと、株式会社が証券取引所に上場して初めて株を公開することって、概念的に非常に近いんです。どういうことかと言うと、自分たちの成果物を市場に出した時にどう評価されるか。
例えば、アルバムが初回で100万枚売れてミリオンヒットを達成したら、それは大成功です。同じように、IPOでも、市場の期待値が高く、初値が予想を上回って大きく上昇するのは大成功ですよね。どちらも市場における最初の反応が非常に重要で、その後の展開に大きく影響を与える。次の成長へのステップとして、どちらも重要なプロセスなんです。
確かに、英語で言ったら「リステッド」、リストに名前が載るという意味ではどちらも同じですね。
彼らの場合、このリストに載る状態が、今はインスタグラムでたくさんの人に音楽を聴いてもらい、その結果ライブに足を運んでもらうという形で進んでいますが、これからどういう展開を考えているのか、後で聞いてみたいと思います。
少し結論めいた話になりますが、ここまで話してきたことは、彼らが意識せずにやってきたことだと思います。しかし、実際にはスタートアップが行うことと多くの共通点を持っていると思うんです。
ビジネスの意思決定、資金調達、ファンコミュニティのマーケティングなど、スタートアップが行うことと本質的に同じです。音楽という分野での「起業」なんですよね。
いや、素晴らしいですね(笑)。
最初はこじつけかと思いましたが、しっかりした論理があって驚きました。
意外とちゃんとしてるでしょ?
びっくりしました。
宮田
二人は、ここまでの話を聞いて、どう感じましたか?
そうですね。今までそんな視点で考えたことはありませんでしたが、確かに言われてみればその通りだと思います。
音楽業界でも、バンドの解散や方向性の違いでダメになるケースがありますよね。でも、ここにイノベーションを起こしたのが、モーニング娘。や、AKBのようなシステムです。最初からメンバーの入れ替えを前提にしている、いわば「新陳代謝」のシステムで、ファンもそれを受け入れています。これが顧客を引きつけ、成長を続ける非常にフレキシブルな仕組みです。
それって、日本的なシステムですよね。式年遷宮や大企業の人事の入れ替えのように、システムが途切れることなく続く感じがします。
まさにその通りです。LDHも同じようなシステムですが、ジャニーズのようにメンバーが抜けると終わってしまうグループもあります。このシステムを発明したのはすごいことだと思います。
一番最初にこのシステムを採用したのはどこですか?
私の知る限りでは、モーニング娘。が最初だったと思いますが、どうでしょうね。会場にいる友人の小西利行さんが詳しいかもしれないので、後で聞いてみたいと思います。ともかく、これはすごい発明だと思います。
海外ではあまり見かけませんよね。
バックストリートボーイズやジャクソン5はメンバーが入れ替わることはありませんでした。そもそもジャクソンじゃなくなったら終わっちゃいますし。
中身が丸っきり入れ替わって地方巡業している往年のソウルバンドみたいなのは見に行ったことはありますけど。
ジャーニーやクイーンのようにボーカルが変わるバンドもありますが、システムとしての入れ替えとは違いますよね。
クラシック音楽のオーケストラなどではどうですか?あそこではメンバーの入れ替えがありますよね。
オーケストラも長い歴史の中でメンバーが入れ替わって続いていますね。
オーケストラでは、コンサートマスターなどが毎回変わることが多いですよね。企業で言うところの業務委託のような形で。そういう意味で、入れ替えシステムはクラシックのオーケストラに似ていると思います。
確かに、その通りですね。
ところで話は変わりますが、
二人で会社を始めたんですか?
はい、そうなんです。
それはどんな会社なんですか?
バター
もともとは、最初に二人で会社を作る前の話ですが、最初は大阪での出来事でした。普通に旅行に行って、街中にあったストリートピアノを見かけたんです。
金沢にもありますよね?それで、動画を撮ったら面白いかなと思ったんです。せっかく旅行するなら、ライブをして少しお金を稼ぎ、そのお金で旅を続けようという考えでした。それがだんだん軌道に乗り始めて、次に何をしようかと考えたとき、僕は本職がウェブエンジニアなので、もっと面白い集客の方法があるんじゃないかと思ったんです。
特に彼の演奏活動は、インスタグラムなどオンラインでの集客がメインだったので、そこで二人で「演奏にとどまらず、音楽とビジネスを絡めたものをやってみよう」と意気投合して会社を設立しました。
今やっていることは、もちろん演奏活動が主軸ですが、彼はサブスクリプションサービスも展開しています。エグゼクティブサブスクリプションといって、彼のコンテンツが見放題のサブスクリプションサービスです。
3〜4年前から始めたのですが、リスナーさんやファンの方々が楽しめるコンテンツを揃えています。例えば、ポイントシステムを導入していて、動画を見続けているとポイントが貯まり、1年経つとそのポイントでコンサートに招待されたり、最高ランクまで貯めると、僕が出張演奏を無料で行うというシステムです。僕はアイデア担当で、この仕組みを開発しました。
ちなみに、そのポイントシステムはマリオットホテルのポイント制度を参考にしています。ポイントを貯めて特典を得られる仕組みを応用しました。
さらに、会員登録した人は、バーコードをかざすだけでコンサート会場に入れるチケット決済システムも作りました。ANAの航空会社のシステムを参考にして、会員ランクによって異なる音が鳴る仕組みも取り入れました。
そうなんです。飛行機に乗る時、会員ランクによって鳴る音が違うんですよ。ランクが高いと、豪華な音が鳴る仕組みなんです。これが面白いと思い、ライブでも同じように入場音を導入したらどうかと試してみました。すると意外と好評で、サブスクに入ってくれた人もいます。
それはステータスですね。そのうち、バッグにつけるタグとかもできそうですね(笑)。
そうですね。ただの演奏活動にとどまらず、さまざまな展開をしていきたいと考えています。
そのために会社を作ったんですね。
最初は自分たちのためのシステムだったんでしょうけど、これを横展開していくんですか?
そうです。今の段階では彼の個人ウェブサービスとして運用していますが、もともとチケットの発券サービスや音楽スタジオの予約システムなどを作りたいという話から始まりました。こういったサービスを作るのには規模が大きいので、まずは練習として個人向けのサービスを作ったんです。そして、ついにチケットの発券サービスをリリースする段階に入っています。
すごいですね。僕もコンテンツビジネスの審査員をやったことがありますが、そこで見たアイデアよりもすごいです。
僕たちは音楽活動をしている身なので、「こういったサービスがあったら便利だな」と思うことがたくさんあります。既存のサービスは使いづらかったり、手数料が高かったりすることが多いので、そこを改善できると考えました。
しかも、ファン目線でデザインしているのが素晴らしいですね。
本当に細かい部分にこだわってみると、意外と受け入れられるんだなと感じました。
僕が右脳タイプで、バターは数字やロジックが得意なので、いいバランスだと思います。
僕が右脳の人間なので、バターが数字だったり、右脳の強みのところは、やっぱり宮田家の血筋なのかなと。
まるでCEOとCTOのようですね。ビジョンと実行力がしっかり融合しています。
パフォーマンスがいいですね。
ピアノが上手で、しかも開発までしっかりやってくれる人ってなかなかいないと思うんですけど、今の時代、もしかしたらそういう人が増えているのかもしれませんね。
そうですね。音楽をやっている人って、いろんな才能を持っていることが多いですよね。特に有名なミュージシャンにはその傾向が強いです。
起業家で音楽もやっているという人は結構多いですしね。
確かに、テクノロジー業界でもそういう人がいます。ブライアン・メイは天文学をやっていたし、ピアニストの角野隼斗さんもAIの研究をしているんですよ。
インタビューで彼が、ノイズキャンセリングの仕組みにすごく興味があると言っていたのが印象的でした。
ビジネスの世界も同じで、誰かがやりたいことを始めて、そこから成長していく過程で新しいものが生まれるんです。宮田コーヘイの活動もそうで、コーヘイで実験をして、このシステムがうまくいけば、大きな成長を遂げる可能性があります。
横展開はまだ始めていないんですか?
これからですね。
でも、このシステムは日本だけでなく、海外にも展開できる可能性がありますよね。
大きな目標として、リクルートのようにさまざまなサービスを展開していくことを考えています。それを音楽に応用できればいいなと。
チケットだけでなく、ホテルや不動産などにも手を広げられる可能性があります。
そのシステムはいつローンチ予定なんですか?
年末くらいですね。
結構もうすぐですね。
まずは身近な音楽家の方々に、完全無償で使ってもらって、フィードバックを得ながら規模を拡大していくつもりです。
ブランド名などはもう決まっているんですか?
僕たちの会社名は
「ブラックアダー」です。
ブラックアダーって知っています?
音楽系で最近よく使われる言葉ですよね。
※Blackadder Chord
コーヘイ
そうですね。音楽用語でコードの意味なんです。特に不協和音のような、耳に残るコードを指します。このコードがなければ、曲の印象が大きく変わるというくらい重要なんです。たとえば槇原敬之さんの「どんな時も」のサビ前にある「タッターン、チャンチャーン」というコード、あれがなければ、曲は全然違うものになっていたと思います。このコードのように、周りを支えるスパイスのような存在になりたいという思いを込めて、会社名を「ブラックアダー」と名付けました。
かっこいいですね。
昔から、コード進行やアレンジはセンスのいい作曲家やアレンジャーがやっていたことですが、この数年で「ブラックアダー」として定義されるようになったんです。
主にフュージョン系の音楽では多用されていましたね。
そうですね。
コーヘイが言ったように、そのコード進行がないとサビに行くまでに寂しさを感じるんです。槇原さんも無意識にそれをやっていたんでしょうね。
実は、ブラックという言葉が会社名に入っているのは、あまり良くないというアドバイスをChatGPTからもらったんですが…。
でも、逆に尖っていていいんじゃないですか?
「ブラックアダー」はひとつの単語なので、そのまま名前として使っています。
これからサービス名なども決めていくフェーズですね。私が話しを聞いている限りと、結構面白そうだなと、シンプルに思ったんですよ。今の話を聞いて。
今日の話全体を振り返ってみると、お二人は新しいタイプの音楽家であり、起業家でもあるんじゃないかと感じます。ファンがついてくる決定的な理由というのは、やはり音楽家としての技術や技能がしっかりしているからだと思うんです。聴いている人たちは、その確かな基礎に裏打ちされた演奏に安心感を持っていて、それがファンになるきっかけになっているんだと思います。
お二人とも、幼少期から音楽教育を受けていて、基礎が確立されているからこそ、こういった自信を持って活動できているのではないでしょうか?
そうですね。僕はもともとクラシックピアノを3歳の頃からずっとやっていて、プロのピアニストを目指していました。でも、世の中には本当に上手な人がたくさんいて、弾くだけではなかなかお金にならないんです。やはり、音楽は売り込まないと収益が上がらない。僕は弾くことには自信があったんですが、どうやって自分を売り込んだらいいのかがわからなくて、そこで行き詰まってしまいました。
その頃、両親も自営業をしていたんですが、家業が少し調子が悪くて、経済的な問題も重なり、「これは自分でお金を稼がないとまずいな」と思うようになりました。それで、ウェブエンジニアに転身したんです。転職というより、起業に近い形ですね。そして今に至るわけです。
起業したのは何歳のときですか?
16歳ですね。
で、何の話でしたっけ?あ、そうそう。ずっとピアノを続けていたので、練習量もかなりありました。
やっぱり、ピアノをやる上で学んだことの一つは、まず一定の練習量が必要だということです。
練習なしには弾けません。
その粘り強さというのが、事業を起こす際にも活かされていると思います。
面白いですね。音楽家としてのユニットと、それを支えるビジネスのユニットが重なり合っていて、両方を同じ熱意で続けているというのがすごく興味深いです。これから両方ともスケールしていく中で、特にブラックアダーという会社はどのように成長させていこうと考えていますか?
基本的には、展開としてはホテルや不動産などへの参入も考えていますが、無理して自分ができないことをやらないようにしています。
僕は検査で98%右脳しか動いていないという結果が出たことがあって、数学的な思考が苦手なんですけど、右脳を使ってビジュアル的に理解することはできるんですよ。
だから、苦手なことは形として見えると理解できる。でも、それ以外の分野は無理にやろうとせず、できることに集中しています。
共感覚に近いものがありますね。人間の脳は、ある部分が機能しなくなっても別の回路ができることがあります。コーヘイさんの場合も、違う視点で面白いものを作れるんだと思います。
僕は音が色に見えたりしますし、発想も他の人と異なることが多いですね。自分が優れているというよりは、異なる視点を大事にしています。だからこそ、他の人に理解されなくても、自分の発想を貫いて形にしていくことを目指しています。
彼と組んだ最大の理由もその点です。例えば、車の好みや音楽の趣味は似ているんですが、行動のプロセスが全然違います。彼は直感で「やろう!」と言ってすぐに動くタイプで、僕はまずリサーチをして、結果を予測してから行動するタイプです。その違いが面白いんです。
その違いがニューロダイバーシティ(神経多様性)を象徴していますね。正反対の考え方を持つ人が組むと、より広いスペクトラムができて強いチームになります。まるでビートルズのジョンとポールのように、衝突しながらも新しいものを生み出していくような。
二人はタイプは違いますが、いいバランスだなと思って見ていました。
今日のイベントでは、二人の対話から学べることが多かったですし、こういうスタートや進め方があるんだと、来場者の皆さんにも知ってもらえたら嬉しいですね。
さて、ここで会場にいらっしゃる小西利行さんにもお話を聞いてみたいんですけど、この新刊『すごい思考ツール』が大ヒット、確か2億5千万部?でしたっけ?いや、すごい本なので、皆さんもぜひ買って読んでくださいね。では、コピーライターの小西利行さんです!【拍手】
なんでここにあるの?
小西さんといえば、伊右衛門とかプレミアムフライデー、「こくまろ」やプレステ関連のコピーなんかでも有名ですよね。代表作は「ホンキ de セール」でしたっけ?
あれは、、一番最初のやつだね。
今日の話、どうでしたか?
いや、まず言いたいことと質問があるんだけどさ、今日は急に参加しちゃって申し訳ない。コニタンです(笑)。正直、このイベントのタイトルを見た時は、どうなるのかなーって思ってたんだけど、話を聞いてみて、めちゃくちゃ面白かったんだよね。
おお、そうですか。
いや、だってさ、とある省庁がやってたスタートアップのイベントで登壇させられたことがあるんだけど、あの時の話の200万倍くらいは面白かった(笑)。あの時は全然ワクワクしなかったんだけど、今日の話は本当に良かった。バンドとか音楽をやる人と、スタートアップの関係性っていう話がすごく面白くて、しかも二人の発想が昔のスタートアップのやり方じゃなくて、完全に新しい時代のやり方なんだよね。それがすごく興味深かった。
音楽業界から新しい考え方が出てきたってことですかね。
そうなんだよ。それに、AKBとかモー娘。のシステムの話も興味深かったな。
あれってさ、個人商店からブランドビジネスへのシフトだと思うんだよ。
エルメスとかルイ・ヴィトンみたいに、誰がやってもブランドはブランドとして成り立つって感じ。それを音楽業界に持ち込んだのが、あのアイドルグループたちだったわけ。
でも今日の話はさらにその先に行ってる感じがしたんだよね。ファンとアーティストが一緒になって、成長していくっていう感覚。それがすごく新しいと思った。
そうですね、私たちも彼らのやり方を見て新しいなって思いました。
それで、ちょっと質問があるんだけどさ。
さっき言ってた、ファンとアーティストが一緒になって成長していくっていう話、昔の世阿弥っていう人が書いた『花鏡』って本に「離見の見」っていう概念があるんだよね。これは、演者が観客の視点で自分を見ることができる視点のことなんだけど、それってすごく重要な視点なんだよね。
アーティストとしてやりたいことと、ファンが求めること、そのバランスをどう取っていくのかっていうのがすごく気になるんだよね。どうやってやってるの?
僕たちの場合はリクエストをメインにしたコンサート形式があって、お客さんが弾いて欲しい曲をその場で即興で演奏することが多いんです。それでお客さんも満足してくれるし、僕らも楽しめる。それで、例えば僕らが選ぶコンサートとか、自分たちの曲を披露するコンサートもあって、3つの形でバランスを取るようにしてます。リクエスト中心のコンサートから始まったんですけど、そこからフォロワーも1年で10万人増えました。
それに、僕たちはファンの人をスタッフにしたりしてます。ファンの視点を常に取り入れて、僕らが気づかないところで何が受けてるのかを聞いたりできるんです。そうすると、僕たちが良いと思ってるものと、ファンが良いと思ってるもののギャップに気づけるんですよね。
それ、すごく新しいぞ。
だって、ミュージシャンの友達とかも結構いるけど、みんな自分がやりたいことをやるタイプじゃん。
でもファンの求めるものも大事にしつつ、それを自分たちの力で表現できるってのは、ミュージシャンとしても幸せな形だよね。これ、すごいわ。
私も昭和の人間なので、最初は理解できなかったんですよ。でも彼らと話していくうちに、スタートアップの発想を少し変える必要があるのかなって思いましたね。
ビジネスの世界でもね、ファンや顧客をコミュニティに巻き込んで一緒に作り上げていくってのは、怖い部分もあるけど、これからの時代はそうなっていくんだろうね。大企業やアニメ業界もファンの意見を取り入れてるけど、彼らはもっと深いレベルでやってる感じがする。
これからはそれがスタンダードになっていくんでしょうね。
うん、でもちょっと怖いよね。
特に年配の人たちには、自分が否定されるんじゃないかって不安があると思う。
でも若い世代はその怖さを感じずに、そういうコミュニティネイティブって言われるものなのか何ネイティブなのかわからないけど、名前ついてないキャラクターの人たちがこれから起業していくとそうなっていくんでしょうね、確実に。
そうですね。
これ、まさにコニタンに新しいジャンルの名前をつけてもらいたいですね(笑)。
そうだね(笑)。
あ、この前、孫泰蔵さんと話してたんだけど、「失敗」って言葉、良くないよねって話になって、新しい言葉を作らなきゃいけないって言われたんだよね。
福沢諭吉だって「経済」とか、夏目漱石が「新陳代謝」って言葉を作ったんだからって。
同列に言ってるけど、めちゃくちゃ言ってるなと。
そろそろ終わるけど、思いついた?
思いついてない?
まだ?
一昨日、泰蔵さんが「そろそろコニタン出来たかな」と言ってたよ。
いろんな課題をいっぱい突きつけるのやめて・・・。
でもね、今日は本当に良い話を聞かせてもらった。
ありがとうございました!